JUICHI WAKISAKA

レーシングドライバー 脇阪寿一 OFFICIAL BLOG

2014.6.25

今年のニュルも終わりました。

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ご存知の通り、我々GAZOO Racingは、出場した3台がそれぞれそのクラスで優勝、しかも#48LFAは、豊田章男社長自らがステアリングを握り24時間のチェッカーを受けるという輝かしいものとなりました。

我々のボスは凄い社長だ!
誇りに思う!!
我々プロでもニュルは怖いのに!
株主総会の議長を務めてすぐに飛んできて・・・

この場に居れた事、このプロジェクトを立ち上げてくださった豊田社長をはじめ、トヨタ自動車の皆様、ご協力会社の皆様、そして応援くださったファンの皆様に対し、そしてニュルの歴史、本当に感謝しています。


自分が参加したのは2010年からですが、2007年に成瀬さんと共に始まったGAZOO Racingニュルへの挑戦、途中、成瀬さんを失うという我々にとって大きな出来事があり、いろいろな苦悩、色々な経験、そして喜びを感じながら少しずつ成長してきました。

今回の成績はその証であり、これから未来に向けた布石ですね。

天国で成瀬さんはどう思ってくださってるだろう!?

成瀬さんの存在は僕にとってものすごく大きかった。
もちろんGAZOOに携わる人やそれ以外の人にとってもそうだろうけど。

付き合いは短かったですが、成瀬さんは、僕をレーシングドライバーとして敬意をもって接してくださいました。それが今までやってきた事、自分のやり方に自信を持てた。本当に嬉しかったしこの人と社長のためにニュルで命をかけようと思った。
2010年に僕がはじめてニュルに挑戦し、クラッシュしたあの一件から。



最近は少しずつ変わってきましたが、これまでトヨタの中で、レースはレース、クルマ作りはクルマ作りってなんか別物だった気がする。
全く一緒じゃないのも理解しているつもりです。
GAZOO Racingの取り組みは、ヨーロッパのそれに習い、その間にあってね。
だから、成瀬さんが居なくなってから僕の中では・・・
なんで!?とか、自分は何なんだろう!?とか、なんで僕はここに居るの!?とか、今までやってきた事は何だったの!?
という事が多々あり、モチベーションが下がる事が多かった。
それでも続けてこられたのは豊田章男社長のまっすぐなクルマへの愛、モータースポーツへの愛を身近で感じられる場所だったし、それに報いたいと思ったから。


そして今年のニュル。
僕は大変なクルマと出会うわけです。
LEXUS LFA code X
トヨタの時期スーパースポーツの開発を担うクルマ。
いわば、これからトヨタが、LEXUSが発売するであろう、未来のスポーツカーのための開発車両。
プレッシャーはありますが、名誉ある重責。
見てくれはLFAですが、中身は全く別もの。
1から作り上げた全く新しいクルマ。
僕が初めて乗ったのが3月の終わりの菅生。
印象は
やばい。
まっすぐ走らない。
菅生でこれ!?
ニュルどうすんの!?
ここから始まりました。

我々のプロジェクトリーダーがトヨタの伊東さん。
メカニックの責任者が松本さん。
お二人ともニュルに初めて挑戦する二人。
多少の心配が頭をよぎり・・・
クルマに乗ってすぐ、いつも通りのコメントをしました。
クルマに起ってる事、ニュルに向けた問題点、クルマに対する僕が思う方向性、そして僕からの質問。
僕はいつもおべんちゃらは使わない。
いかに早く問題点を見つけ、それに対して対処し、方向性を示し次に進みたいし、自分に対してのプライドも持っているから。
それによって呼ばれなくなった仕事も多々あります。
でも、この仕事、この感性については絶対の自信を持っています。
問題は隠してうやむやにするのではなく、大変でもそれを克服してみんなの笑顔を見たいと僕は思うのです。
それが大変でもみんなで協力して、みんなで苦労して克服する、そしてその時のみんなの表情と、みんなと同じ感覚で感じる達成感、それが好きなんですね、僕は。
そこには今までに無い一体感、信頼感が生まれるから。
だから菅生でもきっぱりと言いました。
ただ、最近はやっと大人になれましたから、きっちり言葉は選びました。
成長(笑

次に呼ばれたのは翌週の富士のテストでした。
ここで僕は変化を感じました。
ピットを流れる空気の違いです。
クルマに乗って、菅生からの問題点の変化を確認し、さらに次のステップでの課題を探し、大切なのはそのクルマの方向性を示す事のできる感性。
クルマがどのように走りたがってるかを感じる事。
これは誰にでもできるものではありません。
これが長年TRD松井さんと培ってきたスーパーGT開発ドライバーの仕事です。
クルマを降り、コメントをし始めた時、伊東さんの僕を見る目が違いました。
僕のコメントを聞く耳が違いました。
何かの違いを感じてくださったのと思います。
これはこの後、時間が進むにつれ一人、また一人と変化していくのです。
僕がレーシングドライバーをやっていて、優勝した瞬間と同じぐらいの喜びを感じる瞬間がそれなんです。
そして呼ばれる予定が無かった次のテストにも呼ばれることに・・・

迎えたニュルでのVLN3レース。
24時間本番に向けたテストを目的とした参戦です。
案の定、怖い。
乗れたもんじゃない。
ここから我々code Xチーム、真の戦いがスタートしました。
そこには既に、お互いがお互いを認めた信頼関係、相手に対しての敬意が生まれていた気がします。
そうでない方も居ましたが、それは徐々に伝染するもの。
それが生まれる事が大切なんです。
トヨタの人間だけでなく、曙ブレーキの皆さん、ヤマハの皆さん、KYBの皆さん・・・
それは、成瀬さんが僕に下さったあの感覚。
僕が大好きなあの空気感。

そこから幾度かのテストを重ね、ニュル本番の週を迎えました。
クルマには不安が残り、問題点は山積み。
乗ってみてもそのフィーリング。
そこから奇跡が起るのです。
いや彼らが奇跡を起こすのです。

フリー走行を終えた僕の感覚だと、このクルマでの完走は無理。
24時間レースとはそんなもんじゃない。
やはり1から作ったクルマには、この短期間でニュルは無理なんだ。
そう思っていたのは僕だけではないと思います。

それでもクルマに対する要望、方向性、問題点は伝えました。
少しでも良くしたいから。
レース本番を迎えた今、できる事、できない事があります。
それでも、彼らは本気で取り組み、我々の要望に応えるのです。
ブレーキ、エンジンの振動、サスペンション、ダウンフォース、姿勢・・・
それぞれの分野のエキスパートが・・・

奇跡。
そう言ってしまえば、努力した方々、我々の戦友に失礼ですね。
でもそれに気がついたのは、レースが始まって飯田選手から僕にバトンタッチした時です。
僕がドライブしたそのLFA code Xはそれまでのそれとは違いました。
僕が求めた動きに近づいてるのです。
振動が駄目な振動から、良い振動へと。
トラブルを引き起こしそうな動きから、何とかドライバーがケアすれば大丈夫なレベルへと。
ドライバーに安心感を与えるハンドルのフィーリング、そして安定感。
音もそう。
この感覚はレースが進み2回目、3回目のドライブと進むにつれて違う驚きに変わるのです。

その驚きとは、時間が進んでもフィーリングの変化が全くといって無い事。
普通のクルマだと、24時間のレースをしていると、そのフィーリングはどんどん変化していくのです。
それが当たり前です。
井口選手も驚いていましたが、そのフィーリングはゴールを迎える3時間前まで変わらなかったんです。
そんなクルマは世界中探したって無い。
これは今後、このLFA code Xの武器に、長所になるでしょう。
その要因が解明されると、トヨタの武器になり得るかもしれない凄い事。
それが今回の素晴らしい結果を生んだと僕は思っています。


今回のニュル、code Xだけではないですが、我々スタッフの皆さんは大変だったと思います。
#48の関谷チーフメカもしっかり若いメカをまとめていたよね。
メカニックの若い人たちもそうですが、直接僕らドライバーと接する事が多かった伊東プロジェクトリーダーや、松本チーフメカ、初めてのニュルでましてや、我々ドライバーとのコミュニケーションを取るのは大変だったと思います。
言葉こそ日本語ですが、レース畑と自動車生産畑では言葉、フィーリング、伝え方、色々違いますもんね。
見えないところで大変な努力をしてくださった事、僕は知っています。
他の2台と違って先の見えない時期が長かったですよね。
本当にありがとう。
設計の伊東さんも、空力の石川さんもTRDの吉川君も、曙ブレーキの皆さんも、ヤマハの皆さんも、KYBの皆さんも・・・
駄目、ダメ、だめ!ばっかり言ってごめんなさいね。
ほんとうにありがとう!
トムス大岩社長も色々相談にのっていただいて感謝してます。

今回の現場は何度も言いますが、そこに“敬意”がありました。
“敬意”が生まれました。
お互いの仕事を認め合う事からできるその“敬意”
関わる大半がそれを感じたと思います。
偉そうに僕がしたいのとは違います。
でも、その“敬意“ある現場が大好きです。
僕も皆さんの働きにもちろん敬意を持っています。
それが豊田社長の言われる“心ひとつに”の真の意味だと僕は思っています。

成瀬さんがいなくなって、色々あって、時間が経って、違う“敬意”が生まれました。

これも成瀬さんが作られたGAZOOの“道”筋なんでしょうね。

モチベーションが下がっていた自分を、成瀬さんに対して社長に対して情けなく思いますが、それがあるから今の感謝の気持ちが生まれるのもまた正しい事で・・・

僕が悩むいろいろな事は大切で、時とともに色々な事を経験し、仲間ができ、共に切磋琢磨し解決する、それが成長で。

また次のステップで、悩み、文句が出て・・・成長する。

僕は瞬時に物事を解決して次に進みたい性格ですが、時間をかけながらゆっくり解決して進む事も、それは時間のロスではなく、本当はものすごく大切なんですね。
今回教わりました。

何事にも“時差“はありますが、近い将来GAZOO Racingは、ヨーロッパの人たちをも驚かす、日本品質の素晴らしいクルマを、TOYOTAとしてLEXUSとして世に出すんでしょうね!!

僕は僕に対して“敬意”を与えてくださった方を裏切りません。
その人のためなら身を粉にして働きます。
その方々が望まれるなら、世界中が驚愕するようなクルマを僕も作りたいですね。




今回のニュル
“敬意”に対する喜びや感謝は凄く感じました。
でも僕個人の成績に対しては・・・
これまでのLFAの最高記録147周を上回りコースを走り続けてほしいという社長のミッション達成に対して安堵感はありましたし、頑張った方々に対して喜びを与えられたという喜びはあります。
でも、成績だけに特化するとね。
やっぱり僕はレーシングドライバーです。
クラスは違えど、僕より上に後10台居ます。
表彰台に上った人たちに、総合優勝した人たちに対する嫉妬心は大きいです。
いつか必ずあの場所へ日の丸を僕の手で。
GAZOOで行けたら最高ね。
スーパーGTのノウハウを生かせばぜんぜん夢ではないもんね。
ルマンでAndreやBenoît、ロイック、一貴が重宝されるように、ニュルも遅いクルマを抜きながらのレース、スーパーGTドライバーが強いのは当たり前だと思うし、トップグループのレースを見ていても自信あるしね。




最後になりますが、ニュルにはたくさんのメディアの方々が日本から来ていただきました。
Jスポーツの皆さんや、スーパーGT+の皆さん、オートスポーツWEBの方々、スチールカメラマンの皆さん、本当にありがとうございました。
少し前のニュルじゃ考えられない事。
LIVE中継やりましたもんね。

伝える方が居ないと我々がどれだけ大変な事をやっていても日本には伝わりません。

ほんとうにありがとう!







感謝。




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コメント ( 9 )

こーいち :
始めまして。43歳の、こーいちといいます。今回の寿一さんの熱い気持ちが伝わってきたんで僕個人の熱い思いを書かせて下さい。20数年前にクルマの免許を取り当時は週末になると峠に走りに行ってました。自分の中で俺は誰よりも速いと思い込んでました(笑)

当時はクルマはのパーツ代や修理代に給料が無くなり、いつもボロボロの服を来て仲間と走ってました。口癖はいつも金無い彼女欲しいでした(笑)だけど、凄く楽しかったのですが仲間が事故ったり自分の中にも、いろいろとあり峠を走るのを辞めました。今になって考えると、あの頃サーキットを走れる位の金があれば、きっと自分の人生は変わっていたと思います。

走るのを辞めたのですが、クルマが好きで好きでレースや土屋さんが出してるビデオは、よく見てます。

3年程前から、同年代の脇阪寿一さんを応援してます。7才の娘がいるのですが、お父さんが若い頃から好きやったクルマの楽しさを教えようと鈴鹿に連れて行ったりもしてます。今週末のテストと7月の西宮市のトークショー も行く予定で家族全員で脇阪寿一を追いかけます(笑)

同年代の寿一さんには、まだまだ頑張ってもらいたし、モータースポーツならびにクルマのよさを、もっともっと広めて頂きたい。僕自身、微々たる事しか出来ませんが、クルマ業界が
僕の若い頃のように走って楽しいクルマが出るように微々たる事しか出来ませんが、クルマ、並びにレースの良さを娘と嫁には教えます(笑)

とにかく身体には気をつけて、これからもレースやいろんな事で僕らを楽しませて下さい。寿一さんもいつか言ってましたが、それがモータースポーツ界 、クルマ業界が盛り上がるきっかけになると思いますので。

では土曜にお会い出来るの楽しみにしてます。
ニョッキニョキッ :
言葉を選び、的確に伝えるって難しいですね、だって駄目なモノは駄目なんですから、一言目に「駄目だよコレ!」・・つい言ってしまいます。昔の寿一選手の“そういう噂”は雑誌とかに書いてましたね、でも今こうして現場に居られるって事は寿一選手だけじゃなく、みんなも変わったし、それだけ頼りにしてる証しですよね。

泣き虫おやじ :
こんにちは。寿一さん☆☆☆

凄く楽しかったべ( ^ω^ )

中継でこんなに興奮したのセナ・プロのF1以来だ( ̄^ ̄)ゞ

日本のモータースポーツ熱くなってきたな間違いなく(´・Д・)」


菅生かぁ〜´д` ;明日、菅生にならないなか( ̄^ ̄)ゞ



SAVE JAPAN がんばっぺ☆☆☆
マースケ :
豊田社長のレースに対するスタンスは素晴らしいと思います。

作る人が楽しくなければ提供される側だって楽しいわけはないですから。


日本の誇りです。

ニュルに挑み続ける皆さん

ありがとう!
ウーロンハイ :
誰かが声に出して言わないと何も変わりませんからね。
ただの批判とは違う改善のための評価。
ことなかれ主義は必ず失態を招く。
この国の政治がそうであったように。

正直なところ、寿一さんだけでなく豊田社長はじめ、GAZOO RACINGの皆さん、そしてレーシングドライバーの皆さん全員が目指しているものは、今のポジションじゃないって事は前から思っていました。

総合1位。

あと何年かしたら、総合優勝の勝利の美酒に酔いしれる寿一さんとチームの皆さんの姿が見れますように!
家でホルモン焼きでも食いながら応援します(笑)
マースケ :
豊田社長のレースに対するスタンスは素晴らしいと思います。

作る人が楽しくなければ提供される側だって楽しいわけはないですから。


日本の誇りです。

ニュルに挑み続ける皆さん

ありがとう!
mikioGT :
先ずは、11さんの今の思いを語って頂き嬉しく思います。

レーシングスーツを着た11さんがやっぱりカッコイイです。
それに、今回クラス優勝をしたけど、総合順位で言えばまだ上にクルマが居ると、嫉妬感を覚えるとの言葉、聞けて嬉しかったです。

成瀬さんが生前の11さんのクラッシュの後に『クラッシュする様なクルマを造った自分たちが悪い』とおっしゃったこのブログの事を覚えていました。勿論個人的にはそんな自分が少し嬉しかったのですが、そう敬意を払って接してくれた大きな大きな存在の方が居なくなってしまった事は、きっと11さんにとって大き過ぎた辛い出来事だったのでしょうね。

『敬意を払う』『敬意を払われる』相手をリスペクトして、そこには年齢も何も関係なく、ただただ同じ目的を達成したい同志に払う、掛け値のない気持ちだと思います。だからこそ嬉しいし、モチベーションになるし、その人の為なら・・・、と思うのでしょうね。

最近の11さんは、少し前にこのブログでもおっしゃってらっしゃいましたが、モチベーションが下がってましたよね。失礼ながら『嫌な事があった』ってブログでお話しいただいた頃からモチベーション高くレーシングドライバーとして輝く事に影が落ちていたのでしょうか?

今回のニュルでの、ニュルに至るまでのCord-Xの開発から全て、11さんはリスペクトを感じられた様です。ニュルのガレージにはそんな空気が流れていたはずです。明日からでも元気になって、Super-GTも今年是非優勝して頂いて泣きたいですし、恐らく、今後も挑戦されるであろうニュルのレースでも、周りの沢山の人々を泣かせて欲しいと切に願います。
かっちゃん :
お疲れさまでした。そして、これからもチャレンジしてください。ニュルの頂点目指してください!私は、ニュルが世界のレースで1番だと思っています。
そして、日本人もレースを楽しめる人が居る事を証明してください、
たいしょう? :
開発ドライバーは、ドライビングの他にも、感性を磨き
表現力を鍛えることで車の開発をスムーズにしているのですね。
確かにBlogを拝見していても、表現力は感じられます。

ニュル24時間を走り終えた、ドライバーのチームに対する
感謝の気持ちと決意が感じられる報告です。

社長以下、車が好きな人たちが熱い想いとともに集まって
一つの目標に向かって一丸となって進んでいく。
その想いを胸に秘め、今度は市販車を作っていく
この想いを持った社員が増えて行けば楽しい車が
できそうで、ワクワクします。

モータースポーツはチームスポーツですものね。
チームで成果を残すには、お互いのリスペクトが
必要ですし、その為には自身にできることを
自身のベストを果たすしかないことは、わかるんですが
それを行うのは、容易ではないこともわかるんです。
そんな中で、それをなし遂げたチームの皆さんには
最大の賛辞を送らせてください。

僕らにできることは、モータースポーツを盛り上げていく
事くらいですから、微力ながらがんばります。

これからも応援します。 がんばってください。
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