2008/11/7-9
今シーズンの最終戦を迎えたSUPER GT。締めくくり舞台はトヨタ陣営のホームサーキットでもある富士スピードウェイ。つねに全開、調整なしの戦いを続けてきたNo.36 PETRONAS TOM’S SC430にとってはチームタイトルとドライバータイトル獲得の可能性があるだけに、今回も文字通り全開で挑戦したいところ。与えられた条件の中、ベストな戦いを臨むこととなった。 金曜日の公式練習。天気予報より早く雨が上がり、午前中はウェットコンディションだったが、午後に入り、次第に路面も乾き始めた。最終的にはドライコンディションでセッション終了。チームでは総合8番手のタイムをマークすることになった。土曜は天気予報を前倒しするかのように朝から雨となる。雨量こそ少ないものの、レインタイヤのアタックとなり、まず予選1回目でNo.36 PETRONAS TOM’S SC430は5番手のタイムをマーク。さらに雨量が減ったスーパーラップではタイヤ選択に頭を悩ませる中、浅溝のレインタイヤでアタック。冷え切った路面でのタイヤのウォームアップは難しく、8番手となった。 迎えた日曜の決勝。午前はうす曇だったが、次第に下り坂となり、決勝を前にしてついに雨が落ち始めた。浅溝のレインタイヤでのスタートを迎えたものの、気まぐれな天気に再びタイヤをスリックへと変更。その後はまた雨に……と、慌しい展開の中、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は果敢な攻めでポジションアップを狙った。だが、不運にも他車からの追突を受け、リアホイールを損傷。ピットインを余儀なくされた。その後は、チームタイトル獲得に的を絞り、怒涛の追い上げ。No.36 PETRONAS TOM’S SC430は7位でチェッカーを受け、今シーズンの戦いを終了。チームタイトル獲得を果たすこととなった。
■11月7日・金曜日
公式練習 路面はウェットだが雨も上がり、日差しも見られた朝の富士スピードウェイ。不安定なコースコンディションの中、アンドレ・ロッテラー選手がまずドライブを開始。今回新たに持ち込まれたタイヤの確認を行った。のち、脇阪にスイッチし、今度はレース用タイヤを装着する。いわゆる皮むき作業に取り掛かり、レースに向けての準備を着実に行った。 午後の路面はドライコンディション。気温も20℃まで上がり、日差しが心地よい。その中で、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は引き続きタイヤ確認の作業を行った。現在のウェイトは55kg。軽いとは言えないウェイトを考慮し、さらにタイヤのウォームアップを確認しながら予選に向けての緻密な準備作業に努め、全セッションを終了した。
■11月8日・土曜日
予選 午後から雨になるといわれたこの日。ところが、富士スピードウェイは朝から雨に見舞われた。雨でもクルマは申し分ない状態だったが、問題は想定以上に低くなった気温と路面温度。スーパーラップでのアタックを考えると、難しいコンディションで予選を戦わなければならない。 午前10時30分、GT500クラスの占有走行が始まる。気温12℃、路面温度は13℃とかなり低い温度の中、まずは深溝レインタイヤでロッテラー選手がコースインした。周回を重ね、レインタイヤにうまく熱入れを行い、タイムアップするNo.36 PETRONAS TOM’S SC430。実は金曜日に一度装着していたタイヤでアタックしたのが功を奏した模様。結果、1分45秒798のタイムで5番手を獲得。午後からのスーパーラップ進出を手堅いものとした。 GT300クラスとの混走が始まり、脇阪がコースイン。雨量、路面コンディションを確認するとともに、予選通過基準タイムをクリアし、走行終了。再びロッテラー選手がクルマに乗り込み、午後からのスーパーラップに向けて、クルマ作りを始めた。結果的にポジションの変動はなく、そのまま予選1回目が終了。No.36 PETRONAS TOM’S SC430はスーパーラップへの進出を果たすことになった。 スーパーラップへの準備のため、午後からの予選2回目はロッテラー選手のみ走行。そして午後2時55分、GT500クラスのスーパーラップがスタートした。気温11℃、路面温度13℃と相変わらずの寒さ。ほとんど雨は降っていないが、路面は依然としてウェットコンディション。クルマの後背から軽く水煙が上がる程度だ。チームでは装着するタイヤ選択をぎりぎりまで悩み、一度は深溝タイヤでのアタックも考えたが、先行アタックを終えたチームのタイムを見ながら、最終的には浅溝タイヤを選択する。 タイヤの発熱に時間を要するため、本来のパフォーマンスを引き出すまでに至らない中、アタックを担当したロッテラー選手は1分44秒216のタイムをマーク。8番手となった。 「雨自体はチームにとって恵みの雨でした。しかしながら、想定以上に寒い天気になり、気温、路面温度とも低いものになったので、タイヤのウォームアップがきわめて難しいコンディションになってしまいました。そんな中、まず予選1回目で5番手につけることができ、クルマのポテンシャルの高さを改めて感じ取ることはできました。午後からのスーパーラップは、タイヤ選択に悩みました。短時間でタイヤを発熱させるためには、深溝タイヤという選択もあったのですが、ひと足さきにアタックしたクルマが刻んだタイムを見たら、もう浅溝タイヤでのアタックしかないと。しかしながら、やはり充分に熱を入れることができず、攻めきれないアタックになりました。8番手からのスタートになりますが、今年最後の戦いも、いつもどおり、チームらしい戦いをしたいと思っています」と脇阪は慌しい予選を振り返った。
■11月9日・日曜日
決勝 迎えた決勝日。すでに雨は上がっているもののうす曇の空がサーキット一面に広がり、気温8℃、路面温度9℃と寒い朝になった。午前8時35分からスタートしたフリー走行は、路面の一部がまだ濡れているとして、ウェットコンディション扱いとなる。大半のクルマがまず浅溝タイヤでコースイン。コンディションの変化に合わせてスリックタイヤへとスイッチした。No.36 PETRONAS TOM’S SC430も同様に、脇阪、ロッテラー選手とドライブを続け、細かな調整、確認などを行った。 午後2時のスタートを前に、とうとう雨が上空から落ちてきた。気温9℃、路面温度10℃と依然肌寒い天候の中、各車がピットを離れ、ダミーグリッドへと向かう。スリックタイヤでコースインしたものの、不安定な路面状況を受けて早々にタイヤ交換を始めるチームも出る中、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は天候の行方を見守りながら、時間いっぱいまでタイヤ選択の決断を待つことに。大半のクルマが浅溝タイヤへとチェンジしたことを確認したかのように、No.36 PETRONAS TOM’S SC430が同様のタイヤを装着したのは、結局フォーメーションラップ開始直前のことだった。 気温条件や路面温度を考慮し、フォーメーションラップはいつもより1周多い2周。ゆっくりとタイヤを温めるかのようにローリングを済ませたマシンは、グリーンランプ点灯とともに1コーナーへ。そして不安定な路面を得意とするNo.36 PETRONAS TOM’S SC430のロッテラー選手はポジションを2つあげて6位でオープニングラップを終了。その勢いのまま周回を重ね、4周目にはついにトップへと躍り出た。だが、乾き始めた路面に対し、周囲では早くもスリックタイヤへと戻すためのピットインを始めており、先の展開がまったく読めない状況となる。 「スリックタイヤでスタートした後方の2台が、あまりタイム差なしに後ろにつけていたので、すぐエンジニアのところにいって、スリックへ戻すのがいいのではないかと話をしました」とレース後に脇阪が振り返ったように、チームでもすぐさまスタッフがタイヤ交換の準備を始めた。だが、依然として上空には雨雲が居座り、いつ雨脚が強くなっても不思議ではない状況。結局、No.36 PETRONAS TOM’S SC430がピットインしたのは6周目を終えてからだった。 スリックタイヤへと交換し、再びコースへ向かったロッテラー選手。10周を過ぎると、各車ペースアップする中での攻防戦が始まった。しかしその中でNo.17 NSXがNo.36 PETRONAS TOM’S SC430に追突するというハプニングに遭遇。この影響でリアホイールにダメージを負うというアンラッキーに見舞われる。これでタイヤ交換のピットインを強いられたNo.36 PETRONAS TOM’S SC430。幸い、スタッフの懸命なタイヤ交換で最小限のピットストップに食いとどめることに成功。再度追い上げを開始した。 レースは25周を過ぎると、再び雨が落ち始め、コース上ではワイパーを動かすクルマが増えてきた。チームによっては、これより先にピットインを済ませ、スリックを装着しているところもあったが、満を持してピットインを行ったNo.36 PETRONAS TOM’S SC430では、迷わず浅溝タイヤを選択。併せて給油作業も済ませ、脇阪がコースへと向かった。 待っていたかのように、このあと雨量は増す一方。スリックを装着したライバルたちは再度タイヤ交換を強いられるなど、非常に慌しい展開となる中、脇阪は冷静なステアリングさばきで周回を重ねていく。後半、7位キープで走行していたNo.36 PETRONAS TOM’S SC430だが、終盤、脇阪のもとには、トップから1周のラップダウンしている状態を同一周回に戻すようにというチームの指示が無線で入った。 というのも、予定外のピットインにより、ドライバーズタイトルの可能性は惜しくも厳しいものになっていたが、チームタイトル獲得のチャンスはまだ充分に残されており、そのためにも1ポイントでも多くの点数を獲得する必要があったのだ。順位によって与えられるポイントに加え、トップと同一周回でチェッカーを受けると3点がさらに上乗せされる。ライバルとの戦いを制するには、同一周回でのチェッカーがタイトル獲得の必須条件ということが判明したため、脇阪はまずトップ車両の後続につけ、周回を重ねた。 「早いタイミングでトップのクルマを抜いて同一周回に戻しても、チェッカーまでにブルーフラッグが出る可能性も考えられたので、タイミングを考えて走行を続けました」と脇阪。つまり、トップ車両の前で走行を長く続けていると、進路を譲る指示としてのブルーフラッグが出されるため、再びラップダウンを強いられることになり兼ねないというわけだ。それならばと、脇阪はまずトップ車輌の後続につけて周回を重ね、残り2周となる64周目に同一周回へと戻し、このまま7位でチェッカーを受けた。 結果、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は2位と1ポイント差でGT500チームチャンピオンのタイトル獲得に成功。一方、ドライバーズランキングでは3位となり、今シーズンのすべての戦いを終了した。
■脇阪寿一 コメント 「レース前のタイヤ選択では、スリックでも出走できたと思いますが、タイトル獲得の可能性が高いだけに、あまりにもリスクが高いと思いました。加えて、レースウィーク中に、タイヤのウォームアップが悪いことがわかっていただけに、結果としてソフトの浅溝タイヤでアンドレが出走しました。ところがスリックタイヤを選んでいた他車がいいペースで後続につけていたので、スリックに戻すほうがいいという判断になりました。とはいえまだ雨の可能性もあり、すぐにピットインするわけにもいかず、本当に難しい状況になりました。また、スリックに交換後、17号車の追突を受けるなど、アンラッキーもあってドライバーズタイトルを獲るチャンスは惜しくもなくなってしまいました。しかしながら、まだチームチャンピオンの可能性はあったので、いいレースをしようと最後まで頑張りました。僕のスティントは安定したコンディションで走ることができたのですが、周回遅れのままゴールすると、獲得ポイント差でチームタイトル獲得が難しくなるということが判明したため、同一周回に戻すべくペースを上げてトップ車両の後ろにつけ、あとはブルーフラッグを出されないようタイミングを見計らってトップ車輌の前に出て、同一周回に戻しました。色んなことが次々と起こり、慌しいレースとなりましたが、チームとしての仕事をみんながやり遂げた結果、チームタイトルを獲ることができて良かったと思います。今年一年、チームはつねに全力を出すレースにこだわって戦ってきました。これからもチームらしい戦いを続けていきたいと思います。シーズンを通してたくさんの応援をいただき、ありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします」