2008/10/17-19
今シーズンのセミファイナルを迎えたSUPER GT。シリーズの行方を占う終盤の一戦だけに、各チームによって戦略も異なるようだが、No.36 PETRONAS TOM’S SC430にとっては、つねに全開というシンプルかつストレートな戦意で挑んでいるだけに、アップダウンの激しいテクニカルなオートポリスでも、攻めのレースをするのみだ。 正直なところ、これまでの戦歴で搭載された70kgというハンデウェイトは決して軽いものではない。10〜20kg台のウェイトに留まるライバルとのタイトル争いは極めて厳しい。しかしながら、チームでは与えられたコンディションの中で、つねに真っ向勝負を挑むことを身上にしている。金曜日の公式練習では、午前のセッションで8番手、そして午後には9番手のタイムをマーク。やるべきメニューを粛々とこなし、翌日の予選に向けての準備を進めた。 快晴の土曜日。予選1回目でスーパーラップへの進出を決めたNo.36 PETRONAS TOM’S SC430。スーパーラップではヘビーウェイトのマシンで好タイムをマークする作戦があたり、7位を手にした。 日曜の決勝日も穏やかな秋晴れ。しかし、タイヤにとっては厳しいコンディションの決勝レースを迎えることになった。そんな中、チームは2回のピットストップを遂行。ライバルたちの不意を突く作戦で、よりベストなレースに持ち込んだ。結果、9位でチェッカーフラッグを受けたのだが、レース後に上位の車輌が30秒加算のペナルティを受けたため、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は8位へと浮上。これにより、ランキング2位と僅か1ポイント差の3位で最終戦を迎えることとなった。
■10月17日・金曜日
公式練習 熊本と大分の県境に近い場所にあるオートポリス。ワインディングロードを抜け、山間部に作られたサーキットはアップダウンの差が大きく、テクニカルなコースレイアウトを持つだけに、クルマのセットアップによって差がつきやすい。加えて、No.36 PETRONAS TOM’S SC430としては、70kgというハンデウエイトも大きな足かせとなる。金曜日の練習では、事前に用意されたメニューにそって走行を実施。タイヤ選択からセッティングの確認に至るまで、細かな作業を進めた。
■10月18日・土曜日 予選
午前10時40分、GT500クラスの占有走行がスタート。気温は22℃、路面温度は31℃と季節と場所を考えると想定以上に高い数値を示している。クルマのウェイトに関わらず、タイヤに厳しい展開になるとどのチームも予想しているだけに、タイヤを温存しようと占有走行開始後もなかなかコースインするマシンが出てこない。ようやく1台のクルマが走行し始めたのは、開始10分後。No.36 PETRONAS TOM’S SC430では、これを追うようにアンドレ・ロッテラー選手がクルマに乗り込み、コースへと向かった。 アウトラップ後、計測2周目にロッテラー選手は1分41秒981のタイムをマーク。まずは3番手につけたが、続々とライバルがタイムアップ。ところがほぼ同時期に、39号車が第1ヘアピン手前でスピンし、その先のスポンジバリアに激しくヒット。跳ねたマシンがバリアに乗り上げるアクシデントとなった。これで赤旗が提示され、セッションは一時中断となる。車輌が回収され、再びセッションが行われたのだが、残された時間はわずか1分30秒。上位争いに食い込みたい車輌の中には、まだアタックラップを終えていないところもあったようで、占有走行後のGT300クラスとの混走時は、緊迫したコンディションの中でアタックが進められた。幸い、No.36 PETRONAS TOM’S SC430はアンドレがアタックを済ませていたため、予定通り脇阪が予選基準タイムクリアの走行を行い、あとはクルマのセッティング確認などのメニューを消化するに留まった。 セッションを終えた段階でNo.36 PETRONAS TOM’S SC430は暫定10番手。スーパーラップへの進出を決めたのだが、セッション終了後、赤旗提示中にタイムアップした車輌においてベストタイムの見直しが行われたため、順位が大幅に変動。結果、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は5番手となった。 「1周の走行ならともかく、正直、周回を重ねる決勝ではタイヤのコンディションが相当キツいと思いますね。だからアンドレのアタックも早めに行ったんです」と予選1回目を振り返った脇阪。クルマはつねに進化を重ねているが、気温や路面温度の上昇は、クルマにとって厳しい現状に輪をかけたようだ。 スーパーラップへの進出を決めたことで、午後からの予選2回目はロッテラー選手のみ走行。準備を進めた。そして午後3時20分、GT500クラスのスーパーラップがスタート。気温24度、路面温度35度と、予選1回目より気温、路面温度ともに上昇した中でのアタックとなった。 通常は、コースインのアウトラップを終え、1周のウォームアップを済ませてからタイムアタックに入るスーパーラップ。だが、チームではアウトラップを終えると、そのままタイムアタックに入るという意表を突いた作戦に出る。そしてロッテラー選手は1分41秒780のタイムをマーク。7番手のポジションを得た。 「チーム力があるからこそ、できた作戦でした。時間をかけて培われたものがないとできなかったでしょう。厳しいシーズンの中でも、再びオートポリスでチャンスが巡ってきて、ライバルにプレッシャーをかけることができたと思います。ウェイトをはじめ、予想以上に高くなりそうな気温、路面温度を考えると、決勝は厳しい展開になるでしょう。でもその中で、チームとしての意地は張りたい。現状の中でやれることをしっかりとやり遂げることができるよう、頑張りたいですね。引き続き、エンジニアとのミーティングを続け、このキツい戦いの中でもコントロールしやすいクルマを作っていきたいと思います」。土曜のセッションを終えた脇阪は、緊迫した戦いの中で、チームならではの総合力を武器に、明日の決勝に挑む決意を語った。
■10月19日・日曜日 決勝
今シーズンにしては珍しく、金曜からの3日間を好天気で迎えたオートポリスの戦い。まさにレース日和の週末となった。午前9時から行われた30分間のフリー走行でも青空が一面に広がり、爽やかな風が吹き渡った。気温19度、路面温度23度でスタートしたフリー走行だったが、終了時には気温21度、路面は27度までともに上昇。決勝ではタイヤの消耗が激しくなるであろうことを予測させた。 No.36 PETRONAS TOM’S SC430にはまずロッテラー選手がコースイン。ちょうど時間を2つに分割するかのように15分を過ぎるとピットインし、脇阪へスイッチ。脇阪は決勝レースのシミュレーションを順調に消化、細かな最終チェックを行った。 午後2時、気温24℃、路面温度35℃のコンディションのもと、65周の決勝レースがスタートする。7番手のNo.36 PETRONAS TOM’S SC430はオープニングラップでもポジションをキープ。その後はNo.35 SCと僅差で周回を重ねていく。後方からはウェイトの軽いクルマが猛アタックするなど、慌しい展開となったが、チームでは無理なプッシュや攻防戦をするのではなく、“自分たちのレースをすること”を強く意識し、レースを消化していった。 そして迎えた20周目。ロッテラー選手がピットイン。タイヤ4本を交換し、16.7秒で作業を終えてピットを離れた。つまり、No.36 PETRONAS TOM’S SC430は2ピットストップ作戦を遂行し、ライバルたちと異なるアプローチでオートポリスを戦うことにしたのである。 重いウェイトに加え、SC勢はやわらかいタイヤを選択していることからこのような作戦になったのだが、レース後の脇阪によると、「2ストップで戦える可能性があると思って、土曜の夜にエンジニアに相談した」と いう。「去年、他チームのSCが2ストップ作戦をやっていたので、エンジニアに相談しました。オートポリスはピットレーンがあまり長くないし、また、去年より今年は予選のラップタイムが落ちていたので、タイムロスが少ないぶん、チャンスがあると思ったんです。あとは、スタート時にガソリンを軽くして、給油とタイヤ交換を1回目にするのか、あるいは重い状態でタイヤだけ交換するのかなど、そのあたりの組合せを考えてもらおうと思いました」。最終的にチームが下した決断は、2ストップを行い、1回目はタイヤ交換のみを行うというもの。今のNo.36 PETRONAS TOM’S SC430においてベストな戦略を実践したというわけだ。 ロッテラー選手はその後もそつなく周回を続け、42周を終えて2度目のピットイン。タイヤ交換とドライバー交代を行い、脇阪が満を持してコースへと向かった。アウトラップ、そしてその後の2周はあいにく大渋滞の中での走行を強いられた脇阪。早いタイミングでペースアップさせてもらえなかった、とレース後に振り返ったが、まずは着実にポジションアップを狙い、チャンスを伺った。だが、ライバルたちは軽いウェイトゆえペースもよく、思うようにパッシングのチャンスが巡ってこない。 周りのライバルたちもほとんどポジションを入れ替えることなく、No.36 PETRONAS TOM’S SC430もそのまま周回を重ねることになったが、終盤に1台をパスして9位に浮上。そのままフィニッシュラインをくぐった。ポイントを重ね、かつウェイトを20kg降ろせるとあって、チームとしては申し分のないポジションでチェッカーを受けたと思ったのだが、レース後、上位フィニッシュの車輌が他車との接触行為でフィニッシュタイムに30秒加算のペナルティを受けることに。これによって、No.36 PETRONAS TOM’S SC430のポジションは8位へ浮上。その結果、3ポイントが加算され、合計59ポイント・ランキング3位で最終戦の富士に挑むことになった。 ポイントランキングトップとの差は15ポイント。しかしながら、70kgから55kgへとウェイトも軽減され、SCのホームサーキットでの富士で迎える戦いとなれば、No.36 PETRONAS TOM’S SC430の底力を存分に発揮できるチャンスも多い。最終戦は、自分たちがシーズンを通して続けてきた戦いを貫くのみだ。
■脇阪寿一 コメント
「2ストップ作戦をうまく利用することができました。とにかく今回はタイヤに厳しいレースになったのですが、うまく自分たちのレースができました。ただ惜しむらくは、アンドレと交代直後の3周ほどをいいペースで走れなかったという点です。ちょうど周回遅れの車輌が多く、自分の走りをさせてもらえませんでした。あれでうまくペースをつかめていれば、また違った展開になったかもしれません。最終戦の富士は、これまでどおり、自分たちのレースをするのみです。ライバルたちはシーズン中にレースをコントロールしたり、色々やってきたのでしょうが、僕たちはいつも全開で戦ってきたので、これが最後に大きな強みになって活きてくると思います。プレッシャーを感じることなく、充実したレースができると信じています。チームの総合力をしかとお見せできるようがんばりますので、一層の応援をぜひよろしくお願いいたします」